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技術詳細

ARCPインバータの回路構成と
モデルベース開発の進め方

方式選定からモデル構築、評価までの具体的な内容をご紹介します。

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1. ソフトスイッチングの代表的な回路方式

用途によって「高効率」「制御の難易度」「補助回路の部品点数」のトレードオフが異なります。

方式 代表手法 主な利点 設計上の注意点
ハードスイッチング PWM/SVPWM 回路が簡素、制御実装が容易 高周波化で損失・発熱・EMIが増えやすい
ソフトスイッチング 共振遷移、補助共振ポール(ZVS) ターンオン損失とdv/dtストレスを低減 負荷条件により成立範囲が変わる
共振電流、補助スイッチ(ZCS) ターンオフ損失とdi/dtストレスを低減 補助回路損失と制御タイミングが重要
共振DCリンク(ACRDCLIなど) 複数相でソフト化しやすい 回路複雑化、THD、制御安定性を要確認
補助共振ポール(ARCPI) 共振DCリンク 相ごとにZVS/ZCSを狙いやすく、損失の改善が大きい 補助SW、Lr、Crの追加と保護設計が必要

表1.ハードスイッチングとソフトスイッチングの代表手法一覧(弊社技術資料より)

2. パワーデバイスの選定

スイッチング周波数・適用電力の帯域によって、適したパワーデバイスは変わります。

スイッチング周波数と適用電力によるパワーデバイスの選定マップ
表2(要約).スイッチング周波数・適用電力によるパワーデバイスの選定傾向
(ROHM/Infineon/Wolfspeed各社のSiC・GaN・IGBT等パワーデバイス公開資料をもとに弊社にて整理)

低速・大電力帯ではPress-pack IGBTやIEGT/IGCT、中速帯では高性能IGBTやSiCハイブリッドモジュール、高速・超高速帯ではSiC MOSFETやGaN HEMTが用いられます。SiC/GaNの普及により「高速化しても高効率を維持できる設計」の要求が高まっており、ソフトスイッチングは高度化・差別化の有力な技術として位置づけられます。

3. モデルベース開発の進め方

理想回路モデルだけではソフトスイッチングの成立条件を誤るリスクがあるため、下記4つの技術面をカバーしたモデルを構築します。

素子レベル

Coss(出力容量)、逆回復特性、ゲート抵抗、温度依存性を考慮したパワーデバイスモデル

転流セル/寄生成分レベル

配線インダクタンス、浮遊容量、DCリンクのESR/ESLを含めたモデル化

制御レベル

PWM/SVM、補助スイッチタイミング、デッドタイムを含む制御モデル

負荷レベル

モータ、逆起電力、機械負荷を含むインバータ負荷モデル

MOSFETまたはIGBTの物理モデルにバスバーや配線などの要素を加味してインバータモデルを構築することで、損失・EMI・ストレスの評価精度を高めることができます。特にSiC/GaNの半導体スイッチを適用する際は、この寄生成分の考慮が重要になります。

4. 開発事例:ARCPインバータによるPMSMモータ駆動

ハードスイッチングインバータ(HSI)の主回路に共振コンデンサCrと、共振インダクタLrを持つ補助回路を追加した構成です。

ARCPインバータによるPMSMモータ駆動のモデリングおよび制御構成図
図3.ARCPインバータによるPMSMモータ駆動のモデリングおよび制御構成(弊社実施例)

主回路

パワーデバイスにSiC MOSFETを使用。スナバキャパシタ(Cr1~Cr6)により、スイッチターンオフ時の電圧変動(dv/dt)を抑制し、スイッチ両端電圧を一時的にゼロへ保持してターンオフ損失を最小化します。

補助回路

パワーデバイスにGaN HEMTを使用。各相の共振回路を直流中性点と接続し、負荷電流だけでZVSできない場合は共振電流を強制的に注入してゼロ電圧スイッチングをアシストします。

モータドライブ用途では、負荷電流の大きさ・方向、速度域、トルク指令、回生によって常にZVS/ZCS条件が変化します。そのため動作点を固定せず、運転点の変動に対応する検証を行う必要があります。今回の事例におけるインバータ・モータの仕様は以下のとおりです。

システム電圧 700V
最大出力 280kW
スイッチング周波数 33~100kHz
モータ回転数 3000RPM

5. 評価項目

今回の開発事例では、主にパワー損失、熱、温度および応答性を中心に評価を実施しました。

損失関連

総損失、導通損失、スイッチング損失、補助回路損失

波形・応答性

THD、電流リプル、トルクリプル、応答性

熱関連

素子温度、ジャンクション温度、冷却

ノイズ・保護

EMI、サージ電圧、ゲート波形、保護動作

6. 応用が見込まれる分野

ソフトスイッチング技術の応用分野:EV/HEVトラクションインバータ、産業用モータドライブ・高速コンプレッサ、航空・移動体向け高電力密度電源、再生エネ用電力変換(PCS)
本技術資料で紹介した技術開発の応用が期待される分野(弊社技術資料より)

参考文献

本ページの内容は、以下の公開文献および弊社での検証・整理に基づいています。

  1. Haifeng Lu, Qiao Wang, Jianyun Chai, Yongdong Li, Review of Three-Phase Soft Switching Inverters and Challenges for Motor Drives, 2024.
  2. M. Turzyński, P.J. Chrzan, Resonant DC link inverters for AC motor drive systems – critical evaluation, 2019.
  3. Alberto Guerra, The Era of Forced Resonant Soft-Switching, Pre-Switch White Paper.
  4. Sakke Simpura, Review of Zero-Voltage Switching Three-Phase Inverters and DC Link Voltage Balancing in ARCPI, 2025.
  5. Wei Dong, Analysis and Evaluation of Soft-switching Inverter Techniques in Electric Vehicle Applications, 2003.
  6. Lu, Kuang, and Lakshmi Priya Gandla, Modeling and Simulation of Soft Switching in Traction Inverter, 2023.

パワーデバイス選定に関する情報は、ROHM/Infineon/Wolfspeed各社が公開するSiC・GaN・IGBT等の製品資料を参考に、弊社にて一般的な傾向として整理したものです。特定企業の非公開情報や特許技術の記載は含みません。

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